こんにちは、池袋 焼肉たんたんです!
本日は焼肉にまつわる〇〇の日をまとめたコラムです!
長くなるので、適宜当店の情報を混ぜながらご紹介していきます。
日本の「肉の記念日」と焼肉の物語
カレンダーの数字は、ときに人の背中をそっと押す。たとえば「29」。ただの数でしかなかったはずなのに、日本ではいつしか「肉」を連想させる合図になった。毎月めぐってくる二と九の並びは、忙しない生活の中で小さなご褒美の口実を用意してくれる。「今日は肉の日だから」。理屈としては薄いかもしれない。けれど、わたしたちはその口実を嬉々として受け取る。食卓の機嫌がよくなると、日常も少しだけやわらぐ。
今回のコラムでは、日本や海外で広く親しまれている「肉に関わる◯◯の日」をたどりながら、語呂合わせと地域の誇り、季節の呼吸、そして焼肉というスタイルが、どのように私たちの暮らしと折り合いをつけてきたのかを眺めていく。
焼肉の日――8月29日、夏の終わりの合言葉
「や(8)きに(2)く(9)」という語呂合わせの明快さは、もはや説明を要しない。1993年に東京都中央区日本橋茅場町に事務所を置き、焼肉店を運営する企業などで構成される「全国焼肉協会」(JY)が打ち出したこの記念日は、三十年あまりの時間をかけて、夏の風物詩のひとつになった。
ちょうど夏休みの終盤、宿題のラストスパートに焦る子どもを横目に、親も暑さに少し疲れている。食欲が落ち気味な時期に「焼肉の日」が差し込まれると、「じゃあ行こうか」と会話が早くまとまる。
鉄板の上で脂が弾け、白い湯気がすべり上がる。箸先で返した瞬間のきつね色、その香りだけで米の量が決まる。焼肉は“ひと皿を分け合う料理”であり、“それぞれの好みが共存できる料理”でもある。塩で軽く、タレで濃く、赤身で締め、脂で盛り上げる。家族や友人の相性が多少悪くても、焼肉の卓の上では案外うまくいく。
余談をひとつ。8月29日は、実は肉以外の記念日もいくつも並んでいる。それでも「焼肉の日」が圧倒的に記憶に残るのは、語呂の強さに加えて、“体調の谷間”に出現する救済感があるからだろう。夏バテの時間帯に「食べる理由」を差し出すこの記念日は、心理的にもよくできている。
肉の日――毎月29日、月に一度の小さな祝祭
音の連想が生活のリズムに溶け込むと、暦は繰り返し効いてくる。
毎月29日は肉の日だ。肉の日は、都道府県食肉消費者対策協議会が制定した。
スーパーの折り込みがそれを告げ、外食の店先にも幟が立つ。月に一度の楽しみとして、あらかじめ予定表に書き込んでおく人もいるだろう。多くの人が給料日直後であり、「今日は肉の日だから」と自分に甘くなれる。
肉の日の面白さは、家庭と外食が同じスイッチで動くことだ。家庭の食卓では特売の牛小間がすき焼き風の煮物に化け、外食では“いつもより少し良い部位”を頼む勇気をくれる。優劣の話ではない。二つの回路が同時に温まるから、“日本中で肉が主役になる日”という雰囲気が自然に生まれる。
余談をもうひとつ。2月9日もまた「肉の日」として扱われる。真冬の底だ。身体が温かいものを求める季節に、脂の甘さと湯気の力は頼もしい。焼肉屋の引き戸を開けた瞬間、冷えた指先に熱気がまとわりつく感じ――その体験の記憶が、数字の並びと結びつく。
いい肉の日――11月29日、年の瀬の前に“ご褒美”を
秋が深まると、街の空気が急にせわしなくなる。忘年会、帰省の切符、冬物のコート。そんな流れのすぐ手前、11月29日に「いい肉の日」は置かれている。全国有数の肉用牛の産地である宮崎県のより良き宮崎牛づくり対策協議会が制定した。「いい(11)にく(29)」という語呂合わせの楽しさに加えて、“年の瀬をちょっと前倒しで祝う”雰囲気がある。
銘柄牛の名が話題に上り、普段は手が届かない部位にも“今日くらいは”と箸が延びる。ステーキハウスや焼肉店の予約が一気に埋まっていくのは、肉が単なる食材ではなく、「一年を労う象徴」として扱われているからだろう。
この日が近づくと、SNSのタイムラインが肉の写真であふれる。完璧な焼き目のアップ、岩塩の結晶、湯気の輪郭。見ているだけで舌の根がざわつくが、写真の奥にあるのは、誰かが誰かに「よく一年がんばったね」と言うための時間である。いい肉の日は、そんな個人的な祝祭を公に許してくれる。
焼肉開きの日――3月の第4土曜日、新しい生活の扉を開ける
春は始まりの季節だ。卒業、入学、就職、転勤。別れと出会いが同時に起きるので、胸の内は忙しい。2019年に神奈川県横浜市西区に本社を置き、焼肉のたれなど製造・販売を行うエバラ食品工業株式会社が制定した「焼肉開きの日」は、そんな春の終わり際、3月の第4土曜日にそっと差し込まれた。狙いは明確で「門出を焼肉で祝おう」という提案である。
考えてみれば、焼肉は儀式に向いている。フォーマルすぎず、かといって軽すぎもしない。炭火を囲めば話が自然と転がり、味の濃淡で会話の呼吸が整う。卒業の写真よりも、鉄板の上の音や香りのほうが鮮やかに記憶に残ることだってある。
春の光はやわらかい。大皿の上で薄桃色の肉が透ける瞬間、桜の花びらの色と似ているな、と思うことがある。焼肉開きの日は、季節の色彩と食卓の色彩を重ね合わせる。花見の公園で煙がゆっくり上っていく景色は、冬と春の境目にたしかな“温度”を与えてくれる。
牛たんの日――9月10日、仙台の名物が全国区になるまで
牛たんの日は、宮城県仙台市を中心とした牛たん専門店が加盟する仙台牛たん振興会が2006年に制定した。「ぎゅう(9)たん(10)」という語呂合わせで、9月10日は牛たんの日。仙台の戦後史とともに育った料理が、地域を越えて広がり、やがて全国の焼肉店の定番になった。
牛たんが面白いのは、脂の歓びと別方向の快感を持っていることだ。塩とレモンで清々しく、噛むほどに香りが立ち上がる。厚切りにして歯を弾ませてもいいし、薄切りでさっと火を通してもいい。タン元とタン先、切り方や下ごしらえで表情ががらりと変わる。
仙台の定食屋で麦飯とテールスープを合わせる体験は、ひとつの完成形である。けれど、焼肉の卓に並ぶと、牛たんはまた別の顔を見せる。カルビやロースの合間に挟むと、口の中が一瞬でリセットされるあの感じ。牛たんの日は、食べ方の多様性が文化の厚みを生むことを、静かに教えてくれる。
池袋 焼肉"たんたん"の由来にもなっている牛たんは、当店一押しのメニューです!
ぜひ一度ご賞味ください!!
また、ブログとしても牛たんの日に関する記事を掲載しました。ぜひご一読ください!

松阪牛の日――毎月19日、名前だけで空気が変わる
全国で松阪牛を通信販売する株式会社やまとダイニングが制定したのが松阪牛の日。日本を代表する和牛である松阪牛の個体識別管理システムの運用が開始された2002年8月19日にちなみ、毎月19日を記念日とした。
毎月19日にやってくる「松阪牛の日」は、ある種の“名前の魔法”を示している。特別なものには、呼ぶだけで場の雰囲気を変える力がある。卓上に一皿、松阪と名のつく赤身が置かれた瞬間、会話が少し丁寧になるのを感じたことはないだろうか。
もちろんブランドは記憶の蓄積でできている。肥育の手間、流通の管理、個体識別の制度。それらの背景が「松阪」の二文字に凝縮され、月に一度、思い出させる。食べるかどうかは別として、“思い出す機会”を設けるのが記念日の役割だ。
赤身の断面に走る細いサシは、派手ではないのに品がある。火を入れる角度で脂がのびる速度が変わり、香りの立ち上がり方も違ってくる。料理の細部に目が向くのは、名前の重みが身構えさせるからかもしれない。
とっとり0929(和牛肉の日)――地域の言葉で、地域の味を語る
鳥取県牛肉販売協議会が制定した9月29日の「とっとり0929(和牛肉の日)」は、鳥取の和牛を掲げる日でもある。「わ(0)ぎゅう(9)に(2)く(9)」と数字に言葉を埋め込むこの遊び心は、地域が自分の味を自分の声で語ろうとする姿勢にも見える。全国区の知名度では他の銘柄に及ばずとも、品質や育てる手間は胸を張って語れる――その前向きさが好きだ。
旅の最中、土地の牛を食べると、風景に奥行きが生まれる。海からの風、山の陰、冬の雪。牛の育つ環境を想像しながら口に運ぶと、肉の香りに地図が重なる。とっとり0929は、観光と食が交差する位置に置かれている。紙のパンフレットより、舌の記憶のほうが歩いた道を長くとどめるからだ。
じゅうじゅうカルビの日――10月10日、“音”で覚える記念日
全国で焼肉レストラン「じゅうじゅうカルビ」を経営する、株式会社トマトアンドアソシエイツが制定したのが「じゅうじゅうカルビの日」だ。
「じゅうじゅう」とは、肉が焼ける音の擬態。10月10日という並びにその音を重ね、企業の名前と“音の記憶”をひとつに括る。部位名「カルビ」を正面に掲げた点も、実は珍しい。日本では牛たん以外、部位単独の“公の記念日”はあまり多くないからだ。
音は、記憶の底に長く留まる。店に流れるBGMより、網の上の軽い破裂音のほうが、帰り道にふと蘇ることがある。タレが焦げる瞬間の香り、金網に触れたときの小さな引っかかり。その体験を「10/10」という数字に結びつける発想は、シンプルで強い。
当店自慢の和牛カルビです!
脂がしっかり乗っていて、思わずご飯を進んでしまう美味しさです!
ぜひ一度ご賞味ください!

羊肉(ようにく)の日--4月29日、“語呂”でつながる記念日
北海道札幌市にあるジンギスカン食普及拡大促進協議会が2004年に制定したのが「羊肉の日」だ。
「よ(=4)うに(=2)く(=9)」という語呂合わせが、日付と直結する。語の響きに遊び心を持たせながら、同時に羊肉という食材の存在を広く伝える。日本の食卓では牛や豚に比べて頻度が低いからこそ、このような“記憶のフック”が重要になる。
背景にあるのは、北海道の食文化を代表するジンギスカン。鉄鍋の山なりの中央で肉が焼け、周囲の溝に野菜の甘みが流れ込む。羊肉の日は、この調理法に象徴される「地域の味」を改めて見直し、羊肉全体の魅力を発信する狙いを持つ。
香ばしい煙や独特の香りは、体験した人の記憶に強く残る。数字「4・2・9」が、煙の向こうに立ち上がる匂いや音と重なっていく。シンプルな語呂はGWの始まりでもあるこの日に、食卓へ羊肉を呼び戻す合図になる。
なぜ“部位だけの日”は少ないのか
牛たんの日とじゅうじゅうカルビの日を除けば、部位単独の“◯◯の日”は意外に見当たらない。理由はいくつか考えられる。ひとつは、部位の呼び名や切り分けが地域や店によって揺れること。ハラミとサガリの境界、ミスジの取り方、ロースの幅。基準が一致しにくいと、広域で共有する旗が立てづらい。
もうひとつは、焼肉というスタイルの本質が“組み合わせ”にあることだ。塩とタレ、薄切りと厚切り、脂と赤身。コースの中で役割を持ち回るから、一部位だけに日差しを集中させるより、語呂合わせや季節のような“大きい括り”のほうが馴染みやすい。たとえば8月29日や毎月29日は、卓の上の序列をいったん解いて「みんな主役」にできる。
言葉が味を変える――語呂合わせの効能
語呂合わせは、軽い冗談のようでいて、食の体験を前向きにする。29が肉に化ける瞬間、舌は多少の脂を“今日のご褒美”として受け入れる準備を整える。11月29日の“いい肉”という言い切りは、食材への期待値を上げるが、同時に食べ手の姿勢を正す。不思議なもので、良い言葉に誘われると、食べ方が丁寧になる。
食べ物の記念日は、しばしば「ただの販促」として見られる。それでも、人が自主的に乗りたくなる言葉がそこにあるなら、まっとうな文化として機能する。焼肉の記念日が長く保たれているのは、言葉が提供する“軽やかな正当化”が、不思議と人の品位まで損なわないからだ。
家庭の台所と外食のカウンター、二つの景色
29日の夕方、スーパーの肉売り場が賑わう。合挽きと豚バラが山積みになり、普段は手を出さない国産牛が「今日はいいか」とカゴに入る。家庭の台所では、フライパンの上で肉が反り返り、甘い匂いが部屋に満ちる。
一方、外食の店先では、暖簾を揺らす風にタレの香りが混じる。予約の名前が読み上げられ、奥の炭が赤く灯る。家庭と外食、どちらの景色も29という数字の下に連結されるのが面白い。暮らしの二つの回路が、同じスイッチで同時に温まる。これが“肉の日”の最大の発明かもしれない。
写真の時代の焼肉――湯気は写らないが、空腹は写る
SNSの画面で、焼肉はとくに映える。赤い筋目、きらりと光る脂、箸先のピント。けれど、本当の主役は写真には写らない“熱”だ。テーブルに届いた皿の温度、網から立ちのぼる湯気、最初の一枚を置く緊張。
写真は記憶の栞として十分に役立つ。だが、焼肉の良さは“その場の呼吸”に宿る。記念日が人を集めるのは、写真のためだけではない。隣の席から聞こえる笑い声、氷の溶ける音、誰かが「うまい」と小さく呟く瞬間。そうしたものを、毎月一度、年に数度、確実に取り戻す口実になっている。
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季節の境目に置かれた日付の意味
8月29日は夏の終わり、11月29日は冬の入り口、3月の第4土曜日は春の扉。こうして見ると、焼肉に関わる記念日は“季節の境目”に巧みに配置されている。人の体温と気分が変わるところへ、エネルギーの高い料理を差し込む。暑さを抜けるために、寒さに備えるために、新しい暮らしのリズムを刻むために――肉はいつも、少し頼もしい。
四季がはっきりしている国で、食の記念日が繁殖するのは自然なことだ。春の菜、夏の果、秋の穀、冬の根。肉はそれらすべての季節と仲がいい。焼肉の網の上で、季節は一枚ずつ裏返される。
未来の“◯◯の日”に向けて
この先、部位や調理法を冠した記念日が増える可能性はある。たとえば「ハラミの日」や「ホルモンの日」。ただし、日の名を定着させるのは語呂だけではない。食べ方の気持ちよさ、場の空気の良さ、食後の満足が名前を支える。
もしかしたらあなただけの「〇〇の日」を作ってみてもいいのかもしれない。例えば、焼肉店でホルモンしか食べない「ホルモンの日」や池袋 焼肉たんたんのおすすめポイントであるおしゃれな一品料理を中心に楽しむ「一品料理の日」などなど。

フレンチ出身シェフが作るカプレーゼ
海外編:「肉の記念日」をめぐる世界の食卓
――数字と肉が出会うとき、文化はどんな匂いになるのか
日本で「29」が肉を呼ぶ合図になったように、世界にも“肉を食べる口実”は多い。国や地域によって由来は違えど、共通しているのは「誰かが食卓にみんなを呼び戻す合図を欲している」ということだ。暦の上に小さな旗を立て、「今日はこの肉を食べよう」と宣言する。その旗の形は、国家の歴史や産業の事情、宗教や地域社会の手触りによってさまざまだ。ここでは韓国、アメリカ、南米、オセアニアを中心に、海外の“肉の◯◯の日”をめぐる風景を歩いていく。
結論から言えば、日本のように語呂合わせで国民的に広がるケースは案外少ない。けれど、数字や記念日が肉と出会うと、どの国でも似た熱が立ちのぼる。人は“食べる理由”を必要としていて、肉はその理由を掲げるのに向いている。脂の匂いは、政治や経済の議論より速く、人の足を食卓へ運ぶ。
韓国・サムギョプサルの日――三層の肉に「3/3」を重ねる国
韓国で「サムギョプサルの日」が3月3日に置かれているのは有名だ。サム(三)ギョプ(層)サル(肉)。脂身と赤身が三層に重なる豚バラ肉を、数字の「3」にきっちりひもづける。語呂合わせというより、構造と数字の一致であり理屈が明快だ。平日の夜でも焼肉店が満席になる光景は珍しくなく、鉄板に斜めの溝が刻まれた“傾斜プレート”からは脂が川のように流れ落ちる。煙を避けつつ旨みを残す工夫は、家庭用ホットプレートにまで波及し、簡易換気の道具といった周辺文化を育てた。
余談だが、韓国の焼肉は“包む”文化が色濃い。サンチュに肉、にんにく、唐辛子、味噌を重ねると、咀嚼のリズムが早くなる。野菜でリセットしながら肉を重ねる構造は、「たくさん食べることを肯定する」社会の知恵でもある。3月3日の合図は、そんな明るい食欲を祝う鐘の音のように街へ響く。
アメリカ・“部位で祝う”カレンダー――ブリスケット、スペアリブ、そしてプライムリブ
アメリカに目を向けると、記念日は「部位」に寄り添って増殖する。5月28日にはブリスケット、7月4日にはバーベキューのスペアリブ、4月27日はプライムリブ。
ブリスケットとは牛の胸の部位であり、脂が少なめで長く働く筋のため結合組織が多くそのままでは固い。低温で長時間のスモークや煮込みなどで使用する。スペアリブとは豚の腹側の部位であり、低温長時間のバーベキュー/ローストが基本である。プライムリブとは、牛の肋辺りの部位であり、乾熱のローストで調理することが多い。
記念日はしばしば民間のカレンダーサイトや食品業界のキャンペーンに支えられ、法定の祝祭日とは別のレイヤーで浸透する。だが、それで十分だ。人を動かすのはたいてい、生活に近い言い訳である。近所の精肉店が「今日はブリスケットの日だから」と炭を起こし、近隣がその匂いに誘われて集まってくる。アメリカの“部位の祝日”は、煙と音で広がる。
プライムリブという“儀式”の時間
アメリカのプライムリブは、単に厚切りの肉を焼く行為ではない。低温でじっくり焼き、休ませ、ナイフを入れるまでの“待ち時間”そのものがご馳走だ。店によってはワゴンに載せた大きな塊を客席まで運び、目の前で切り分ける。ナイフの銀色が赤身の上を滑るたび、テーブルの空気が少し緊張し、すぐに安堵にほどける。記念日の名が付くと、この待ち時間に意味が与えられる。「今日はこの肉を待つ日だ」と。待てることを祝うのも、豊かさの証だ。
スペアリブと独立記念日――骨の周りに人が集まる
七月四日の空には花火が上がり、庭先ではスペアリブが焼かれる。骨の周りの肉は、筋の向きが入り組んでいて、噛むときの歯への当たりが楽しい。ソースを塗り重ねる“ラッカリング”は、塗っては乾かし、塗っては乾かす反復の芸。祝日の反復と塗りの反復が、日付の上で重なる。骨付きの肉は、手づかみを正当化する。手が汚れることをためらわない時間は、人を子どもに戻す。
ブリスケットの日に煙を学ぶ
ブリスケットは胸肉、運動量の多い部位だ。繊維は太く、脂は控えめ。そのかわり、煙が仕事をする。薪はオークかヒッコリーか、塩と胡椒の比率はどうするか。温度を上げすぎれば乾き、低すぎれば進まない。正しい答えは一つではなく、各ピットマスターの手の癖に宿る。記念日があることで、SNSや屋台の前で作り手同士の対話が生まれ、技が地域から地域へ渡っていく。煙は見えにくいが、匂いは嘘をつかない。
ベーコンの祝祭――加工肉が主役になれる土曜日
九月の第一土曜日が「国際ベーコンデー」とされることが多いのは象徴的だ。塩と燻煙で性格づけられたベーコンは、部位の話を越えて“加工の知恵”を祝う。ハッシュブラウンの縁で跳ねる脂、メープルシロップと衝突したときの甘塩っぱさ。朝食の皿は音楽的で、ベーコンはドラムの役割を果たす。
さらに近年は“ベーコン・バーントエンズ”という、カンザスシティ風BBQの「焦げ端」までが記念日の主役になった。脂の塊が熱で四角く収縮し、キャラメリゼした表面が歯に当たって砕ける瞬間、誰もが少し子どもに戻る。
アメリカの「豚の日」――動物を祝う優しい遠回り
3月1日の「ナショナル・ピッグ・デー」は、豚という動物そのものに敬意を払う日として語られることがある。ここでの主役は必ずしもベーコンやハムではない。祝う対象を一段階遠回りにすることで、肉食の喜びと責任を同時にテーブルに置こうとする。
ヨーロッパの“日曜ロースト”という長い記念日
法的な制定やキャンペーンの旗がなくても、文化が事実上の記念日を持つことがある。イギリスやアイルランドの「サンデー・ロースト」はその好例だ。日曜の午後、家に人が集まり、オーブンの前を行き来する。肉の表面に油を回しかけ、ポテトの角をカリッとさせ、グレイビーの味を整える。日付は一つに固定されないが、毎週の反復が“週ごとの聖日”をつくる。
この“見えない記念日”は、海外の肉文化を理解する鍵になる。何を祝っているのかと問われたら、「今日が日曜であること」としか言いようがない。だがそれで十分なのだ。
ヨーロッパのソーセージ文化に触れる小さな寄り道
厳密には“肉の◯◯の日”としての制定が少ない地域でも、ソーセージをめぐる祭はそこかしこにある。ドイツの町の収穫祭では、燻製小屋の前に人が並び、背の高いジョッキが泡をあふれさせる。羊腸の薄さに火が通る速度、脂の粒が舌で弾ける瞬間、そしてパンの柔らかさ。公式の「制定」より長持ちするのは、身体のほうに早く届く記憶だ。
インドの多様性――食べるか、食べないか、そのどちらも文化
肉の記念日を語るとき、食べない文化についても触れておきたい。インドでは宗教や地域、家庭の価値観によって肉食の可否が細やかに分かれる。食べる/食べないの線は固いが、線のこちら側でも豊かな料理が育つ。豆の煮込み、香辛料の重奏、油脂のコントロール。だからこそ、“肉を食べる記念日”がたまに顔を出すと、街の輪郭がいつもと違って見える。違いを抱えたままの祝祭は、世界の常識である。
カナダの燻煙、メキシコのタコス――挽肉が越境する先
カナダの煙は静かだ。サーモンやメープルの印象が強い国だが、内陸の農場ではビーフのスモークも根強い。硬い冬を越える保存の知恵が、味に“余韻”を残す。南へ下ると、メキシコのタコス文化に挽肉の多彩さが現れる。ピカディージョの甘さと辛さのバランス、コーンの香り、ライムのリセット。挽肉は器の形を選ばず、国境を越えた先で“その土地の辞書”に訳される。
小結:世界の“肉の日”が教えること
韓国の三層、アメリカの部位、ニュージーランドの海、ウルグアイの産業、ヨーロッパの日曜。ばらばらに見えるが、テーブルの上では似てくる。誰かが火を起こし、誰かが皿を温め、誰もが最初の一口に集中する。数字は合図、匂いは証拠、そして笑い声が判子の代わりになる。食べることが共同体を修復し、記念日はその修復を定期便にする。世界のどこかで肉の祝日が巡ってきたら、私たちも遠くから小さく頷けばいい。匂いは届かなくても、合図は共有できるのだから。
未来に向けて――“日付を遊ぶ力”の輸出入
最後に、未来の話を少し。日本が“語呂合わせの名人”だとすれば、その技術は輸出できる。三月三日の三層肉のように、形や口触りを数字に接続する遊びは世界でも通じる。逆に、海外から学ぶべきは“地域と部位の固有名”を愛する心だ。テキサスのブリスケット、仙台の牛たん。名は味を守る盾であり、祝祭の看板でもある。日付を遊び、名を守り、匂いを共有する。そんな往復運動の中で、“世界の肉の日”はこれからも増殖していくだろう。
エピローグに代えて
世界のどこかで肉が焼ける音がしている。煙は言語を持たないが、誰にでも読める。数字は小さな合図にすぎないが、その合図に応じて火を起こす人がいる限り、食卓は絶えない。韓国の三月三日も、アメリカの夏の庭も、ニュージーランドの港の記念碑も、ウルグアイの公園のグリルも、みな同じリズムを持つ。うつむきがちな日々の真ん中で、「今日はその肉を食べる日だ」と言える勇気を用意してくれるのが、記念日のやさしい仕事なのだ。
だから今日もどこかで、小さな合図に火が灯る。 合図があれば、人は集まり、笑顔になる。きっと。
最後に
ここまでお付き合い頂いている皆様ありがとうございました!少しだけ当店のご紹介をさせていただければと思います。
池袋駅から徒歩5分。アクセスも良好な焼肉たんたんは、カウンター中心の焼肉店。 焼肉はもちろん、フレンチ出身の料理長が手がける一品料理も自慢です。 さらに、焼肉店では珍しいほど種類豊富なお酒も、ぜひ注目していただきたいポイントです!
池袋で美味しい焼肉を楽しみたいときには、ぜひ一度「焼肉たんたん」へ。
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参考文献
・雑学ネタ帳 様:https://zatsuneta.com/
・サムギョプサルの日:https://k-kaiwa.com/column/post/eJwrtjKyUjI2VbIGAAsyAgE.
・ブリスケットの日:https://nationaltoday.com/national-brisket-day
・プライムリブの日:https://www.nationaldaycalendar.com/national-day/national-prime-rib-day-april-27
・スペアリブの日:https://nationaltoday.com/national-barbecued-spareribs-day
・国際ベーコンデー:https://www.nationaldaycalendar.com/international/international-bacon-day-saturday-before-labor-day